この記事で解決したい課題と、読者が得られるメリット

ドローン測量は多くの現場で導入が進んでいる一方で、 山間部や樹木が密生するエリアでは 「測ったはずなのに地表面が見えない」「点群処理で植生が残り、土量計算の誤差が大きい」 といった悩みが依然として多く聞かれます。

その背景には、「SfM写真測量」と「LiDAR測量」が そもそも何を測っている技術なのかという原理の違いが、 十分に共有されていないことがあります。本記事では、 植生下の裸地データを確保したい現場で、 どのように技術と機材を選定すべきかを整理します。

🎯 本記事で解決できる主な課題

  • 濃い植生下で正確な土量計算ができず、設計値との齟齬が大きい
  • SfMの結果に樹木が残り、裸地(地盤)だけのモデルが作れない
  • 現場条件ごとにSfMとLiDARのどちらを選ぶべきか判断できない

💡 読み終えたときに得られるメリット

  • SfMとLiDARの特性を理解し、案件ごとに最適な技術を説明・提案できる
  • 植生下の地盤を捉えた高精度な裸地データを前提に設計を進められる
  • 機材投資や外注費を含めたコスト最適化と工期短縮の見通しを立てやすくなる

要点:SfMとLiDARの「測れる範囲」の違いと選定基準

SfM(Structure from Motion)写真測量とLiDAR(Light Detection and Ranging)レーザー測量は、 ともにドローンで3次元点群を取得する技術ですが、 「何を見て距離を出しているか」という根本原理が異なります。 この原理の違いが、そのまま「植生下を測れるかどうか」の差になります。

SfM写真測量とLiDAR測量の基本原理

比較項目SfM写真測量LiDARレーザー測量
基本原理 複数方向から撮影した画像間で対応点を見つけ、 三角測量により3次元座標(X,Y,Z)を算出する。 ドローンからレーザーパルスを照射し、 反射して戻るまでの時間差から対象物までの距離を直接計測する。
主な成果物点群データ、オルソ画像、3Dメッシュモデル点群データ(必要に応じてカラー情報を付加)
大きな制約 カメラから見えている表面のみを捉える。 写っていない地表面は原理的に取得できない。 レーザーが届く範囲であれば取得可能。 ただし機材価格・データ量・解析コストはSfMより一般に大きい。

植生下の測量でLiDARが効いてくる理由

問題となるのは、樹木や藪などの上にあるものを測りたいのか、 その下の地盤を測りたいのか、という目的の違いです。 SfMが得意なのは「見えている表面形状」の再現であり、 樹木の葉や枝の下に隠れた地表面までは届きません。

一方LiDARは、レーザーパルスが葉の隙間から地表面に届いた場合、 その反射もデータとして取得できます。 このとき、葉や枝からの反射と、地表面からの反射が別々のリターンとして記録されるため、 処理段階で「地表面だけを抽出する」ことが可能になります。 これが、山間部や治山工事でLiDARが選ばれる最大の理由です。

SfMは「見えている表面」、LiDARは「表面とその下の地表」を分けて取得できるイメージ図

コスト・精度・目的から見た技術選定の考え方

SfMとLiDARのどちらを選ぶかは、次の3点を押さえると判断しやすくなります。

  • 裸地データの必要性:構造物点検や伐採済み斜面の概略土量把握であれば、 SfMのみで成立するケースが多くなります。
  • 植生の量と密度:樹木が疎で地表が見えている面積が多い場合は、 SfM+現地補測で対応できる可能性がありますが、 密な森林ではLiDARが事実上必須となります。
  • 要求精度とコスト: LiDARはSfMに比べて、初期導入・レンタル・解析まで含めると 投資規模が数倍〜一桁上がることもあります。 その代わりに、裸地データの信頼性は大きく向上します。

なぜ従来のSfMでは植生下の「裸地」抽出が難しいのか

SfM自体は成熟した優れた技術ですが、 その前提が「カメラから対象が見えていること」である以上、 植生下の裸地抽出には構造的な限界があります。 この限界を理解しないまま測量を進めると、 設計段階から誤った地形モデルを前提としてしまうリスクがあります。

SfMが捉えているのは「表面」であって「地表面」ではない

SfMで生成される点群は、 ドローンカメラが撮影した写真に写り込んだ表面の集合です。 樹木であれば、葉・枝・幹の上面が密に点群として現れ、 その下の地盤は完全に隠された状態になります。

  • 撮影高度や枚数を増やしても限界は変わらない:低高度で重複度を増やしても、 「見えない地面」はやはり再構成できません。
  • 点数が増える=精度が上がる、とは限らない: 密な植生では、点数は増えても「葉の表面」が増えるだけで、 地盤の情報は増えません。

山間部・森林に特有の光学的な難しさ

山間部は日影や急斜面が多く、SfMが頼りにする反射光が安定しない環境です。 また、均一な色・テクスチャの地表(砂地・雪面など)と、 非常に複雑なパターンを持つ密な植生が混在するため、 画像間での対応点探索が難しくなり、ノイズや抜けが発生しやすくなります。

結果として、SfM点群をもとに地表面だけを抽出しようとしても、 フィルタリング処理の段階で 「本来残すべき地表の点を削ってしまう」 「樹木の一部が地表面として誤分類されてしまう」 といった問題が起こり、安定した裸地モデルの作成が難しくなります。


LiDAR測量の仕組みと「マルチリターン」による植生貫通

LiDARが植生下の測量に強いと言われる最大の理由は、 レーザーパルスが複数の対象に反射した情報を分けて取得する 「マルチリターン」機能にあります。

レーザーパルスとマルチリターン機能のイメージ

LiDARでは、ドローンから地表に向けてレーザーパルスを連続的に照射し、 その反射光がセンサーに戻るまでの時間から距離を算出します。 このとき、ひとつのパルスが ①樹木の葉 → ②枝 → ③地表 と複数の対象に当たる場合があります。

マルチリターン対応のLiDARでは、 これらの反射を別々のリターンとして捉え、 1ショットあたり複数の距離データとして記録できます。 この「最後に返ってきたリターン」が地表面由来である可能性が高いため、 処理段階で地表面の抽出に利用されます。

マルチリターンにより「葉・枝・地表」の反射を分けて取得する概念図

ノイズ除去と裸地点群抽出のワークフロー

LiDARで取得した点群データには、空中の塵や一時的なノイズも含まれますが、 各点には高さ・反射強度・リターン番号などの属性が付いています。 これらの情報を組み合わせることで、点群を自動的に分類していきます。

  • 分類プロセスの例:地表面/建物/高植生/低植生/送電線などに自動分類し、 その後必要に応じて手動補正を行う。
  • 裸地データの抽出: 「地表面」として分類された点のみを抽出し、樹木や構造物の点を除いた デジタル地形モデル(DTM)を作成する。

こうした処理を経ることで、樹木を仮想的に「削ぎ落とした」状態の地形モデルが得られ、 土量計算や治山計画に直接使える裸地データを安定して生成できます。


実務でのSfM/LiDARの使い分けパターンと3つの代表事例

現場での判断は、「理論的にどちらが良いか」ではなく、 「このプロジェクトでどこまでの精度が必要か」を起点に考えるのが現実的です。 代表的な3パターンを整理します。

事例1:植生が薄い造成現場での土量計算(SfM中心)

適用シーン:伐採済み造成地、大規模宅地開発、仮設ヤードなど、 植生が薄い、または事前に整理されているエリア。

採用技術:SfM写真測量を主軸とし、 必要に応じて一部を現場測量で補完。

ポイント: オルソ画像と点群を同時に取得できるため、現況把握と数量算出を一度に行えます。 植生が少ないため、後処理で適切にフィルタリングすれば、 DEM(Digital Elevation Model)として十分な精度の地形モデルを得やすく、 コストパフォーマンスに優れた選択肢となります。

事例2:治山・砂防・林道計画における精密測量(LiDAR中心)

適用シーン: 急峻な山間部、既存森林内の砂防ダム計画地、林道の新設・付け替えルート検討など。

採用技術:ドローン搭載型LiDARによる測量を基本とし、 必要に応じて地上型レーザースキャナーやGNSSで補正・検証。

ポイント: 設計の前提となるのは、樹木を除いた地形断面です。 SfMでは見えない地表面をLiDARで安定的に取得することで、 土砂災害リスク評価や擁壁・法面の設計に必要な精度を確保できます。 結果として、設計変更や追加工事に伴う手戻りコストを大きく抑えられます。

事例3:インフラ点検+周辺地形を一体で把握するハイブリッド測量

適用シーン:橋梁・高架道路・ダム・構造物の点検と同時に、 周囲の地形や斜面状況も把握したいケース。

採用技術:構造物の状態把握には高解像度のSfM、 周辺の植生下を含む地形把握にはLiDARを組み合わせるハイブリッド方式。

ポイント: 構造物のクラックやコンクリート表面の状態確認には、 テクスチャ情報が豊富なSfMが向いています。 一方で、構造物周辺の斜面や沢筋の地形把握にはLiDARが有効です。 両者の点群を統合することで、 「構造物」と「周辺地形」を一体で評価できる3Dモデルを構築できます。


機材選定と導入のチェックポイント

ドローン搭載型LiDARは、測量会社や建設コンサルにとって大きな投資です。 カタログスペックだけで判断するのではなく、 「実際の現場でどのような精度・再現性が得られるか」 という観点でチェックすることが重要です。

LiDAR機材を選ぶ際に押さえたいポイント

LiDAR機材は大きく「測量グレード」と「マッピンググレード」に分類されます。 導入・レンタルの際には、次のポイントを比較検討してください。

  • 精度(Absolute Accuracy): 特に高さ方向(Z)の精度が土量計算や断面図の信頼性を左右します。 要求精度に対して、実測検証でどの程度余裕があるかを確認します。
  • 点密度(Point Density): 植生貫通後の地表面に、どの程度の点が残るかが重要です。 点密度が不足すると、谷筋や小さな地形変化が表現し切れない場合があります。
  • マルチリターン性能: 最大リターン数と、そのリターンごとの安定性を確認します。 植生下を確実に抜きたい現場では、マルチリターン性能がボトルネックになることがあります。
  • 運用・解析コスト: 機材本体費用だけでなく、専用ソフトウェアのライセンス、 オペレーター育成、保守費用などを含めて、 年間でどれくらいの案件数・売上が見込めるかを試算することが大切です。

精度検証と報告書作成の実務ポイント

LiDARだからといって、地上での検証が不要になるわけではありません。 SfMと同様に、GNSSなどで取得した検証点(チェックポイント)との比較により、 実際の精度を確認することが求められます。

報告書には、次のような項目を整理して記載しておくと、 発注者・協力会社とのコミュニケーションがスムーズになります。

  • 測量範囲・飛行高度・飛行回数・使用機材の型式
  • レーザーパルスレート、最大リターン数、点密度などの取得条件
  • 検証点との残差(RMSE)の一覧と統計値
  • フィルタリングや分類処理の条件と留意点

これらを整理しておくことで、 「どこまで信頼できる裸地データなのか」を 第三者にも客観的に説明できるようになります。


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FAQ:SfM/LiDAR測量に関する実務的な疑問

Q1. SfMとLiDARの点群データには互換性がありますか?

A1. あります。どちらもX,Y,Z座標を持つ点群データ(LAS/PLY/TXTなど)として出力できるため、 共通の点群処理ソフトウェアで読み込み・統合が可能です。 ただし、SfMにはRGB(色)情報が、LiDARには反射強度情報が付与されていることが多く、 属性の違いを理解して処理する必要があります。 ハイブリッド測量では、座標合わせ(レジストレーション)の精度管理がとくに重要です。

Q2. 樹高が低い、または冬場の測量であればLiDARは不要ですか?

A2. 広葉樹の落葉期など、地表がよく見えている条件であれば、 SfM写真測量のみで十分な裸地データを得られる場合があります。 一方で、針葉樹林のように冬でも葉が残る森や、下草が密な斜面では、 落葉期でも地表面が見えないケースが多く、LiDARが有利になります。 最終的な判断は、 「地表がどの程度可視になっているか」と「要求される地形精度」 で決めるのが現実的です。

Q3. LiDAR導入の費用対効果(ROI)はどのように評価すればよいですか?

A3. LiDARのROIは、単に機材費を回収できるかではなく、 「高精度な裸地データが必要な案件の数」と 「設計変更・手戻り・工期遅延の削減効果」で評価するのが有効です。

たとえばSfMのみを前提とした地形モデルに起因して、 現場での追加掘削や構造物の再設計が発生した場合、 1案件あたり数十万〜数百万円規模のコストインパクトになることがあります。 それを年間で何件削減できるかを試算し、 さらに夜間計測や低照度条件でも測量できることによる 測量可能時間の拡大=工期短縮も含めて評価すると、 投資回収のイメージを描きやすくなります。