導入:t↔m³ 換算は「材の状態」で変わる
t(トン)は質量、m³(立米)は体積。両者をつなぐのは「密度(t/m³)」ですが、土は粒度・含水・締固めで密度が大きく変動します。よって同じ土量でも運搬台数・処分費は変わるのが実態です。本稿では、試験値の読み方と換算式を現場手順でまとめ、見積根拠をブレなく通す方法を解説します。
この記事で得られること
- 試験値(w, ρ, ρd, γ)の最短読み解き
- t↔m³の安全側換算と説明文言
- 雨期・再転圧など状態変化の織り込み
※実務は仕様書・契約条件に従うのが原則。以下は一般的な考え方の整理です。
用語と試験値:w, ρ, ρd, γ の関係
定義(現場で使う表記)
- 含水比 w:水質量/乾燥土質量(%)。例:w=20%→乾燥1.0tに水0.2t。
- 湿潤密度 ρ:単位体積あたりの土+水の質量(t/m³)。
- 乾燥密度 ρd:乾燥状態の単位体積質量(t/m³)。
- 単位体積重量 γ:重力単位系。実務では ρ(t/m³)と同義扱いでOK。
関係式(実務近似)
ρ ≒ ρd × (1 + w)(wは小数表記)
※厳密には間隙比e・粒子比重Gsに依存。見積段階の実務では上式で整合が取れます。
換算式:t↔m³ を安全側で決める最短ルート
1) 体積→質量(t)
式: 質量 M[t] = 体積 V[m³] × 湿潤密度 ρ[t/m³]
例:V=100 m³, ρ=1.85 → M=185 t
2) 質量→体積(m³)
式: 体積 V[m³] = 質量 M[t] ÷ 湿潤密度 ρ[t/m³]
例:M=200 t, ρ=1.75 → V≈114.29 m³
密度の置き方:試験値→現場値
- 室内試験で w, ρd を得たら、ρ=ρd(1+w) で湿潤密度に変換。
- 雨期・含水上振れを見込むなら、w に+5〜10%ptの安全側を置く。
- 粒度でレンジ把握:砂質>シルト>粘性(同一wでも ρ は変動)。
数値シナリオ:乾燥期 / 雨期 / 再転圧
前提: 同一材、乾燥密度 ρd=1.55 t/m³。
- 乾燥期(w=10%):ρ=1.55×1.10= 1.705 t/m³
- 雨期(w=25%):ρ=1.55×1.25= 1.938 t/m³
- 再転圧(w=18%、密実化でρd+3%→1.5965):ρ=1.5965×1.18= 1.884 t/m³
同じ100 m³でも、乾燥期≈170.5 t、雨期≈193.8 tで約23 t(13.6%)差。運搬・処分費が大きく動くため、季節・施工状態を明示した見積が安全です。
NG例とリスク回避
ありがちなNG
- 過去案件の ρ を流用(材が違う/季節が違う)
- 乾燥密度のまま換算(湿潤に引き直さない)
- 粒度差を無視(粘性土と砂質土を同値扱い)
- w を「見た目」で決める(試験値不在)
回避策(見積書に添付する“前提表”)
- 試験値の出典(試験種別/採取日/採取箇所)
- w, ρd → ρ の変換式と安全側マージン
- 粒度区分(砂・シルト・粘土・混合)
- 適用期間(雨期/乾期)、再計算条件(閾値)
「条件が変われば再計算」を明記し、後日の火種を封じます。
現場ワークフロー:試験→換算→見積
1) サンプリング
- 代表箇所を複数採取(高低/湿乾/粗細)
- 採取ログ(座標・深度・写真)を残す
2) 試験と記録
- w、ρd(必要に応じ粒度試験)
- 試験機関・手順・日付・試料IDを記録
3) 換算と見積
- ρ=ρd(1+w)で湿潤密度→ t↔m³換算
- 雨期マージン・再転圧の想定を併記
- 土量→ダンプ台数→運搬・処分費へ連鎖
よくある質問
Q. 「見かけ密度」と「湿潤密度」の違いは?
A. 現場での「見かけ密度」は湿潤密度(t/m³)とほぼ同義で使われます。契約書では用語の定義を確認してください。
Q. 試験なしで過去値を使ってはダメ?
A. 材・季節・締固めでズレるため非推奨。最低でも代表サンプリングでwとρdを取り、湿潤に引き直すのが安全です。
Q. どの程度のマージンを見込む?
A. 雨期や含水上振れを考慮し、wに+5〜10%pt上乗せする運用が現場では多いです(案件特性で調整)。
Q. 算出根拠はどう提示する?
A. 試験報告(採取位置/日時/手順)+換算式(ρ=ρd(1+w))+マージン根拠を前提表として見積書に添付します。
監修・執筆
東海エアサービス株式会社(全省庁統一資格:役務の提供等/全国有効)。ドローン測量・点群解析・BIM/CIM・施工ICTの実務支援。
更新情報
初版:2025-10-12/最終更新:2025-10-12
