導入:体積は“モデル化”で決まる
点群(離散点)から体積を計算するには、地表(あるいは堆積物)を連続面やソリッドに“近似”する必要があります。どの近似を選ぶかで、欠測補完の仕方、ノイズ耐性、壁面の扱い、切盛境界の取り方が変わり、体積値も変動します。本稿では代表的なTIN / ボクセル / クロスセクションの3手法を、誤差の発生原理から比較し、現場での使い分け指針を示します。
この記事で得られること
- 3手法の原理と誤差要因が分かる
- 現場条件に応じた使い分け指針が手に入る
- 入札・社内承認で使える根拠づけの型が分かる
※本稿は一般論です。実際は材質・法面形状・計測密度等により変わります。
TIN / ボクセル / クロスセクションの概要
TIN(Triangulated Irregular Network)
点群から三角網(通常Delaunay)を構築し、連続面を生成。基準面との差で体積を積分。
- 長所:地形の局所変化を表現しやすい/計算高速
- 短所:外挿(凸包外)で不安定/外れ値に弱い
- 主要パラメータ:間引き閾値、外れ値除去、穴埋め補間
ボクセル(体積画素化)
空間を立方体グリッドに量子化し、占有・密度でソリッド化。体積はボクセル数×セル体積。
- 長所:ノイズに比較的強い/欠測領域の管理が明確
- 短所:解像度依存の量子化誤差/計算・メモリ負荷
- 主要パラメータ:ボクセルサイズ、占有閾値、モーフ演算
クロスセクション(断面積合成)
一定ピッチで断面を切り、各断面で面積を求め、台形公式等で体積化。
- 長所:図面文化に親和/説明容易/基準線を管理しやすい
- 短所:ピッチ粗いと漏れ/斜交面や複雑形状に弱い
- 主要パラメータ:断面ピッチ、スナップ方法、外周追従
誤差の発生原理と特性
TINの誤差源
- 外れ値の三角化:孤立高点/低点が面を歪ませる
- 疎密ムラ:点密度が低い領域で外挿気味
- 縁外挿:凸包外推定で面が暴れる
ボクセルの誤差源
- 量子化誤差:セルサイズ起因の階段化
- 占有閾値依存:閾値の上げ下げで過小/過大
- モーフ処理:開閉演算が形状を丸める
クロスセクションの誤差源
- サンプリング漏れ:断面ピッチ間の局所形状を見逃す
- 斜め構造:断面直交でないと面積推定が偏る
- 外周トレースの不整合:外周抽出の揺れ
実務比較:精度・再現性・計算コスト・説明容易性
| 観点 | TIN | ボクセル | クロスセクション |
|---|---|---|---|
| 精度(高密点/滑らか地形) | 高 | 中〜高(細セルで高) | 中(細ピッチで向上) |
| 精度(欠測/ノイズ/壁面) | 中(前処理依存) | 中〜高(閾値設計次第) | 中(断面設計次第) |
| 再現性(同条件の繰返し) | 高(決定論) | 高(決定論) | 高(決定論) |
| 計算コスト/メモリ | 低 | 中〜高 | 低〜中 |
| 説明容易性(社内/発注者) | 中 | 中 | 高(図で説明可) |
| 向く条件 | 一般の地形・高密点群 | ノイズ混在・欠測管理重視 | 線形構造・区画管理・図面文化 |
※あくまで傾向。最適解は「点群品質×形状×説明要件」の三点セットで決まります。
パラメータ設計とNG例
TIN:前処理が命
- 外れ値除去(高さ閾値/局所密度/法線フィルタ)
- 間引きは最小三角形サイズが崩れない範囲で
- 縁外挿はバッファ切り落としで封じる
NG:未分類点をそのまま三角化→法面がボコつき過大/過小。
ボクセル:セルサイズの理(ことわり)
- セルは最小特徴の1/3〜1/5以下が目安
- 占有閾値はサンプル密度で調整(過小/過大)
- モーフ演算は必要最小限(丸め過ぎに注意)
NG:粗セル+高閾値→細溝や縁が消えて体積過小。
クロスセクション:ピッチと基準
- 断面ピッチは最小起伏の1/2以下を目安
- 法線直交を意識(斜行は面積偏り)
- 外周追従は自動抽出+手修正で担保
NG:広ピッチ→局所堆積を見逃し過小、逆に外周過大で過大。
サンプル比較:合成地形&実地パターン
合成地形(真値既知)
ドーム+棚段+立壁を持つ合成地形(真値= 10,000 m³)に、点密度±30%と±5cmノイズ、外周欠測5%を付与。
- TIN(外れ値除去+縁バッファ3m):9,890 m³(-1.1%)
- ボクセル(セル0.25 m、占有閾値2点):10,120 m³(+1.2%)
- クロス(ピッチ2 m、外周半自動):9,780 m³(-2.2%)
※数値は検証用の例示。実案件は点群条件で変動します。
実地パターン(法面+残土ヤード)
- 条件A:法面主体(連続面)→ TIN優位(外れ値徹底)
- 条件B:残土山・重機痕でノイジー→ ボクセル優位(セル微細で)
- 条件C:道路線形・横断で管理→ クロス優位(説明性◎)
QA/QC:検証とエビデンス化
チェックリスト
- 点群の分類(地表/構造物/外れ値)とログ保全
- 外周境界の根拠(図示・写真・宣言パラメータ)
- 手法・パラメータの再現記録(誰でも再計算可)
- 差分ヒートマップの添付(基準面に対する符号)
併用のススメ
基準値は
よくある質問
Q. 一番“正確”なのはどれ?
A. 点群品質と形状に依存します。連続面主体はTIN、ノイズ混在はボクセル、線形案件の説明はクロスが向きやすいです。
Q. 手法が違うと体積がズレます。どれを採用?
A. 契約上の基準(例:作業要領・検査基準)に従うのが原則。併用比較の結果とパラメータを付記して合意を先取りすると安全です。
Q. 欠測が多い現場は?
A. 欠測管理の透明性からボクセルが有利。外周切り方を明示し、セルサイズの根拠(最小特徴寸法)を記載します。
Q. どこから相談できますか?
A. 点群処理〜体積化〜土量コストまで並走します。フォームまたは30分無料相談をご利用ください。
監修・執筆
東海エアサービス株式会社(全省庁統一資格:役務の提供等/全国有効)。ドローン測量・点群解析・BIM/CIM・施工ICTの実務支援。
更新情報
初版:2025-10-12/最終更新:2025-10-12
