竣工図が現存しない、あるいは現況と図面が食い違っている建物は珍しくありません。設計者・審査側が判断材料にできる「現況の正確な寸法」が手元にないまま増改築や用途変更の設計に入り、後工程で「壁の位置」「階高」「開口の実寸」が図面から拾えないと分かって、現地再測量からやり直す手戻りが発生します。現況を一度正確な三次元記録として残しておけば、以降は現地に再訪しなくても寸法・形状を確認しながら設計・申請を進められます。この記事では、老朽化した建物や用途変更対象の建築物躯体を対象に、点群計測からのAs-Built(現況)復元でCAD/BIM化する際に押さえておく仕様を整理します。なお、生産設備・配管・ラインレイアウトなど工場設備側の3Dスキャンについては、対象・進め方が異なるため工場の3Dスキャンが必要なタイミングで別途扱っています。
竣工図が無い建物で起きる手戻り(増改築設計・確認申請時の壁)
竣工図が残っていない建物で増改築・用途変更を計画すると、設計の初期段階で「現況の寸法が分からないまま設計を進め、後工程で実測と食い違いが発覚する」という手戻りが起きがちです。特に確認申請では、既存部分の現況を正確に示す図面が求められる場面があり、手元の図面が古い設計変更前のものだったり、増築の繰り返しで図面自体が存在しなかったりすると、申請準備の前段で現況把握からやり直すことになります。図面が無い、または図面と現況の乖離が疑われる場合は、設計に着手する前に現況を計測し、正確なCADデータへ変換しておくことで、この手戻りを避けられます。
点群からのAs-Built復元でできること・できないこと
点群計測(UAV写真測量・地上レーザースキャナ等の現地条件に応じた組み合わせ)は、建物の外形・内部空間の実寸を面的に記録できる手段です。ただし、点群はあくまで「見えている表面」の記録である点は押さえておく必要があります。
できること
- 外壁・屋根形状、階高、開口部(窓・出入口)の実寸をミリ単位で記録
- 内部空間の壁位置・天井高・柱位置など、目視可能な範囲のAs-Built(現況)モデル化
- 現況図面(As-Builtモデル)としてのCAD(DXF/DWG)化、増改築設計の下敷きとしての活用。現況BIM化の全体像はこちらでも解説しています
- 既存図面が残っている場合の、図面と現況の差異(増築・改修による変更箇所)の照合
できないこと(現地条件依存の限界)
実務でよく確認するのは、壁・天井の内部(下地材・配管・鉄筋の位置)です。点群は仕上げ面より内側を記録できないため、構造計算や耐震診断に必要な躯体内部の情報(鉄筋径・配筋間隔など)は、点群だけでは把握できません。この部分が必要な場合は、既存の構造図・計算書の有無を確認するか、非破壊調査など別手段との併用が前提になります。同様に、天井裏・床下・設備配管ルートなど閉鎖空間の内部も、点検口や開口がない限り記録の対象外です。見積段階でこの前提を共有し、どこまでを点群で拾い、どこを別途調査に委ねるかを整理しておくと、後工程での手戻りを防げます。
建物用途別の留意点
老朽建物(劣化・変形が進んだ躯体)
経年劣化で外壁や床の変形・不陸が進んでいる建物は、図面通りの寸法では現況を再現できません。点群計測は変形した現況をそのまま記録するため、改修設計や補強計画の基礎データとして、劣化した現況の実寸を把握する用途に向いています。
用途変更対象の建物
用途変更(例:倉庫から店舗、事務所から共同住宅など)を計画する建物では、現行用途での図面しか残っていないことが多く、変更後の用途に必要な諸室構成・避難経路の検討には現況の正確な平面・断面情報が要ります。現況をCAD化しておくことで、用途変更後のレイアウト検討や関連法規との照合を、実測データの上で進められます。
既存不適格建物
建築時の法規には適合していても現行基準には適合しない既存不適格建物は、増改築の範囲によって現行基準への遡及適用が問われる場面があります。この判断自体は設計者・審査側の領域ですが、判断の前提となる現況の正確な寸法・面積を示す図面を、点群計測から作成することは対応範囲です。
見積時に確認している項目
- 竣工図・確認申請図の有無(全く無いか、一部の増築分のみ無いか)
- 対象建物の階数・延床面積のおおよその規模
- 内部空間まで計測が必要か、外形・屋根形状のみで足りるか
- 天井裏・床下など閉鎖空間の記録が必要かどうか
- 仕上げ復元(壁・床・天井の仕上げ材の記録)の要否
- 成果物の形式(点群のみか、CAD図面化まで含むか、BIM連携が必要か)
現場でよくある相談
「増築を何度も繰り返していて、どの図面が最新か分からない」という相談は多く、この場合はまず現況を計測して、既存図面との照合から始めることを提案しています。また「確認申請のために現況図が必要と言われたが、竣工図自体が見当たらない」という相談もあり、これは現況計測からCAD化して申請図の基礎資料とする対応になります。逆に「内部の壁を壊さずに構造が知りたい」という相談は、点群では壁内部までは記録できない旨を説明した上で、既存の構造図や非破壊調査の要否を含めて整理するようにしています。
対応フロー
- ロケハン:現況写真・既存図面(残っているもの)・現地確認で建物規模と計測範囲を確認
- 測量:外形はUAV写真測量、内部空間は現地条件に応じた地上計測を組み合わせて計測
- 処理:点群データの統合・座標系の整合、既存図面がある場合は現況との差異を照合
- QC:寸法の再確認、欠測箇所(閉鎖空間・死角)の洗い出しと補足計測の要否判断
- 納品:目的に応じた形式(点群データ、CAD図面、BIMモデル連携用データ)で成果物を提出
使用機材・処理ソフトと標準成果物形式
外形の計測はUAV写真測量(Metashape・Pix4Dmapperで点群・オルソ画像を生成)、内部空間や死角部分は現地条件に応じて地上レーザースキャナ等の計測手段を組み合わせます。点群処理はTREND-POINT、CAD図面化はTREND-ONEで対応します。標準的な成果物形式は、点群データ(LAS/LAZ)、図面(DXF/DWG)、報告書(PDF)です。BIMモデルへの連携が必要な場合は、点群からのCAD化を経た上で、利用しているBIM環境に合わせたデータ形式でご相談に応じます。
東海エアサービスが対応できること
測量業登録第(1)-37730号・全省庁統一資格(役務・全国)を保有しており、官公庁・自治体案件を含めて全国対応しています。建物本体の現況把握(As-Built復元)から、増改築設計・確認申請の前段となるCAD図面化までを一連で対応します。
まとめ
竣工図が残っていない建物の増改築・用途変更は、現況を正確なデータとして復元するところから始めるのが手戻りの少ない進め方です。点群計測でできること(外形・内部空間の実寸記録)とできないこと(壁内部の構造・配管などの内部情報)を切り分けた上で、必要な範囲を計測・CAD化することで、設計・申請の基礎資料として使えるデータになります。測って終わり、にはしません。設計・申請の判断まで持っていきます。
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