🌲都市公園の維持管理DX:点群データから樹木の本数と胸高直径を正確に抽出する技術ガイド
大規模な都市公園や緑地の維持管理において、樹木一本ごとの胸高直径(DBH)や枝張り、本数などの現況調査は、膨大な時間と労力を要し、作業負荷が極めて高いボトルネック作業です。
本記事は、建設コンサルタントの地理空間情報担当者や自治体の維持管理担当者向けに、地上レーザーやSLAMで取得した高密度点群データを活用し、樹木情報を高精度に自動抽出するための具体的なワークフローと、結果の信頼性を高めるための技術的チェックポイントを解説します。
この記事を読むと、以下のことが分かります
- 現地調査工数を劇的に削減するための、点群データ活用の具体的ステップ。
- 胸高直径(DBH)を非接触で高精度に自動算出するためのアルゴリズム選定と処理技術。
- 密集した樹木や有葉期でも計測精度を維持するための点群取得・処理の工夫。
- 抽出した樹木情報をGISや図面に連携し、維持管理計画に活用する実践ノウハウ。
公園・緑地の維持管理は、トレーサビリティと客観性が強く求められます。点群データを用いることで、いつ、どこで、誰が計測しても同じ結果が得られる、高精度で客観的なデジタルツイン基盤を構築できます。
要点:公園管理DXのボトルネック「樹木調査」を点群で解決
都市公園や緑地の維持管理計画において、樹木一本一本の現況を把握する「樹木調査」は、最も時間と労力がかかる作業の一つです。数十ヘクタールにも及ぶ敷地内で、すべての樹木の胸高直径(DBH)、樹高、枝張り、健全度などを測定し、台帳と図面に反映させる作業は、熟練の技術者を長時間拘束します。
維持管理DXが目指すもの:作業時間の劇的な短縮とトレーサビリティ
建設・土木分野のDXが加速する中で、維持管理業務も例外ではありません。樹木調査におけるDXの目的は、単なるデータ収集のデジタル化に留まらず、現地作業時間の劇的な短縮と、計測結果の客観性・トレーサビリティの確保です。点群データは、一度取得すれば様々な解析に再利用できるため、継続的な管理業務の基盤となります。
点群データによる樹木計測の優位性:非接触・高密度・客観性
点群データは、樹木の表面形状を非接触で数百万〜数千万点のデータ(座標と反射強度)として記録します。これにより、以下の優位性を得られます。
- 安全性と効率性: 危険な急斜面や密集地帯での実測作業が不要となり、安全性が向上し、現地作業時間が短縮されます。
- 高密度な情報: 幹の形状、曲がり、枝の広がりを三次元で高密度に記録するため、DBHや枝張りをより正確に算出できます。
- 客観性と再現性: 特定の基準(地上1.2m)の点群データから機械的に寸法を算出するため、人為的な測定誤差や担当者によるバラツキがなくなります。
樹木計測の課題:なぜ従来の現地調査は非効率なのか
従来の樹木調査は、メジャーや輪尺を用いた手動計測が基本です。この方法は、特に樹木が密集しているエリアや、斜面に生えている樹木において、多くの問題点を抱えていました。
従来の樹木調査(実測)における精度と安全性の問題点
実測では、幹の形状が真円でない場合や、根元から分かれている場合など、測定者が主観的に判断して計測位置を決める必要があり、結果にバラツキが生じやすいのが難点です。また、広大な敷地を歩き回り、常に周囲に注意を払いながら計測器具を使用するため、事故や怪我のリスクも無視できません。
「胸高直径(DBH)」計測の煩雑さと人為的エラーリスク
胸高直径(Diameter at Breast Height: DBH)は、樹木の成長や材積を評価する上で最も重要な指標です。このDBHを測定する「地上高1.2m」の位置を現地で正確に特定し、輪尺を巻き付ける作業は、樹木の傾きや地盤面の起伏によって非常に煩雑になります。点群では、この「地上高1.2m」をデジタル空間で統一された基準に基づき正確に決定し、計測を自動化できます。
点群データの複雑性:密集・枝葉・ノイズへの対応
点群データによる計測も万能ではありません。特に、樹木が密生している場所では、隣接する樹木の点群が混じり合い、個体識別(セグメンテーション)が困難になります。また、有葉期(葉が茂っている時期)には、葉が幹の点群を隠蔽(けいへい)し、幹の形状を正確に捉えられないノイズとして機能します。これらの課題を解決するためには、高度なデータ処理技術が必要です。
点群データ取得:樹木計測に適した計測手法の選定
樹木計測を目的とした点群データの取得では、幹の下部(胸高直径の計測エリア)の点群密度と精度が極めて重要になります。手法の選定は、計測対象の規模、必要な精度、および許容される現地作業時間によって異なります。
地上型レーザースキャナー(TLS):幹の形状を高精度に把握する
地上型レーザースキャナー(TLS)は、数ミリ単位の精度で点群を取得できるため、DBH計測に最も適しています。固定した位置から高密度にスキャンすることで、幹の微細な凹凸や曲がりも正確に捉えられます。ただし、広大な公園全体をカバーするには、多数の設置と結合(レジストレーション)作業が必要となり、工数が大きくなる点が課題です。
SLAM(SLM)を活用した迅速なデータ取得と適用範囲
SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を用いたハンディ型またはバックパック型レーザースキャナー(SLM)は、作業者が歩きながら広範囲の点群を迅速に取得できます。TLSほどの超高精度は得られないものの、DBH計測に必要な±数センチメートルの計測精度と、現地作業時間の劇的な短縮を両立できます。大規模な都市公園の概略調査や初期計画の段階で特に有効です。
計測時の重要ポイント:葉の有無とマルチスキャン戦略
前述の通り、葉による幹の隠蔽を避けるため、可能であれば落葉後(無葉期)の計測が最適です。しかし、それが難しい場合は、以下のマルチスキャン戦略を採用します。
- 多方向からのスキャン: 樹木の周囲を複数の角度からスキャンし、レーザーが幹に到達する確率を高めます。
- 低空域からの計測: ハンディ型SLMなどを活用し、地上付近の幹の点群を重点的に取得します。
- 点群密度: 幹の円周形状を正確にフィッティングするため、対象エリアの点群密度が確保されているかを確認します。
図:樹木計測における点群取得手法の比較とマルチスキャン戦略のイメージ
樹木自動抽出・計測ワークフロー(4ステップ)
点群データから樹木の本数とDBHを自動抽出する標準的なワークフローは、以下の4ステップで構成されます。各ステップで、適切なアルゴリズムとパラメーター設定が、最終的な精度を決定づけます。
ステップ1:点群のノイズ除去と地盤面抽出(フィルタリング)
最初に、計測時に発生する一時的なノイズや、不要な構造物(ベンチ、柵など)の点群をフィルタリングで除去します。次に、地盤面(Ground)の点群を非地盤面(Non-Ground)の点群から分離します。この「地盤面抽出」が、DBH計測の基準となる地上高1.2mの位置を正確に決定する上で極めて重要です。
ステップ2:個体識別とクラスタリング:樹木一本ごとのセグメンテーション
フィルタリング後の非地盤面点群の中から、「樹木」の形状を持つ点群を抽出し、一本ごとのクラスタ(点群の集合体)に分割します。このセグメンテーションには、k-means法やリージョングローイング法などのクラスタリングアルゴリズムが用いられます。この段階で、隣接する樹木や、背の高い草木との分離が正確に行われているかが、後の自動計測の精度に直結します。
図:樹木個体識別(セグメンテーション)のイメージ
ステップ3:胸高直径(DBH)の自動算出と精度評価のロジック
個体識別された樹木一本ごとの点群に対し、地盤面から1.2m±許容誤差の高さ範囲にある点群を抽出します。この抽出された点群の断面形状に対して、最小二乗法による円形フィッティングを行い、最もフィットする円の直径をDBHとして自動算出します。算出後、フィッティングの残差が大きい樹木に対しては、信頼度スコアを付与し、後の手動修正対象としてフラグを立てます。
ステップ4:抽出結果の手動修正と属性情報の付与
自動抽出結果を3Dビューア上で確認し、以下の修正を行います。
- 分離エラーの修正: 密集により一本として誤識別された樹木を分離。
- フィッティングエラーの確認: 信頼度スコアが低い樹木に対し、手動でDBH計測位置や断面を調整。
- 属性情報の付与: 樹種、健全度、管理番号などの非幾何学的情報を点群の属性として付与。
この手動修正のステップは不可欠ですが、自動抽出により修正対象を絞り込むことができるため、工数を大幅に削減できます。
品質と工数を最適化する技術的チェックポイント
樹木計測における点群データの活用を成功させるためには、ワークフローの各工程で「何がエラーの原因となるか」を把握し、対策を講じる必要があります。
単体樹木と群生樹木の分離精度を高めるパラメーター調整
クラスタリングにおいて、隣接する樹木間の距離閾値を適切に設定することが重要です。この閾値が大きすぎると群生樹を一本と誤認識し、小さすぎると一本の樹木が複数に分割されてしまいます。解析の初期段階で、対象地の樹木の平均的な株間距離や樹冠の広がりを把握し、現場特性に合わせたパラメーター設定が不可欠です。
DBH算定アルゴリズムの選定:円形フィッティングと最小二乗法
DBH算定では、断面点群に対する円形フィッティング(RANSAC、最小二乗法など)が一般的です。最小二乗法は、データ全体へのフィットを重視しますが、異常値(ノイズ)に弱いです。幹の曲がりや変形が大きい場合は、ロバストなRANSACアルゴリズムの適用や、複数のフィッティング結果の比較検討が必要です。これにより、計測精度が±1cm以内に収束するように調整します。
計測結果の図面・GISへの連携:データフォーマットと座標系
抽出・計測した樹木情報は、最終的に維持管理台帳やGIS(地理情報システム)で利用されます。樹木の位置座標、DBH、樹種などの属性情報を、Shapefile、CSV、または特定のGISデータベース形式で出力する必要があります。点群データとGISの座標系(例:日本測地系2011)が一致していることを、処理の最初と最後で必ず確認することが、後続作業の手戻り防止に繋がります。
活用事例:点群データによる公園維持管理の効率化事例
事例1:大規模緑地の現況把握と植生管理計画への適用(建設コンサル)
【課題】約50ヘクタールの都市公園における全面的な植生管理計画策定のため、約8,000本の樹木すべてのDBHと樹冠形状を2ヶ月以内に把握する必要があった。
【ワークフロー】ハンディ型SLM(SLAM)とTLSを併用し、高効率な点群取得を実施。点群データから樹木自動抽出ソフトウェアを用い、DBHを自動算出し、植生管理区分ごとの本数を集計。自動抽出後に専門家が目視で10%の樹木をランダムチェックし、精度を担保した。
【改善】従来、現地調査に4ヶ月以上かかっていた作業が、現地作業1ヶ月、データ処理1ヶ月の計2ヶ月で完了。取得した点群は、将来的な園路整備計画や施設更新時の干渉チェックにも活用できるデジタル基盤となった。
事例2:台風被害後の迅速な健全度調査と報告書作成(自治体)
【課題】台風通過後、公園内の樹木約200本が倒伏・傾斜。緊急で健全度と倒木リスクを評価し、撤去・剪定計画を策定する必要があった。
【ワークフロー】被害エリアを迅速にドローン(UAV)および地上SLMで点群取得。点群データから樹木の傾斜角度を自動算出し、幹の破損状況を3Dで詳細に確認。DBHと樹高から推定される応力と照合し、危険度レベルを判定した。
【改善】現地目視調査では数週間かかっていたリスク判定作業が、点群取得と解析で3営業日以内に完了。客観的な3Dデータに基づいた報告書を迅速に作成し、復旧作業の優先順位付けと予算要求に貢献した。
事例3:街路樹の健全度・樹冠計測による倒木リスク評価(維持管理会社)
【課題】老齢化した街路樹の倒木リスク評価のため、樹冠の重量バランスと、周辺建築物・道路標識との枝葉の干渉チェックを定期的に行う必要があった。
【ワークフロー】車両搭載型MMS(モービルマッピングシステム)の点群データ(幹の点群)とUAVの点群データ(樹冠の点群)を統合。統合点群から樹冠ボリューム、重心、枝張り範囲を算出し、既存の道路データ(舗装面、建築物のBIM/CIMモデル)と重ね合わせて干渉箇所を自動抽出。
【改善】特に複雑な樹冠形状を持つ樹木において、剪定すべき枝葉の量を定量的に把握可能に。過剰な剪定を避け、景観を維持しつつ、安全性を高めるための計画的な維持管理を実現した。
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FAQ:点群データによる樹木計測に関するよくある質問
樹木計測のデジタル化を進める上で、お客様からよくいただく質問とその回答をまとめました。
Q. 葉が茂っている時期でも正確に計測できますか?
A. 樹木に葉が茂っている時期(有葉期)は、レーザーが幹に到達しにくくなるため、無葉期に比べて幹の抽出精度が低下する傾向があります。特に航空レーザー(ALS)では困難ですが、地上型レーザースキャナー(TLS)やSLAM(SLM)を使用し、多方向からのスキャンを行うマルチスキャン戦略を採用することで、有葉期でも幹の点群を確保し、一定以上の計測精度を維持することが可能です。最適な計測時期や手法については、樹木の種類や密度に応じてご提案します。
Q. 自動抽出後の手動修正にどれくらいの時間がかかりますか?
A. 自動抽出の精度は、点群データの品質(ノイズ、密度)、樹木の密集度、および使用するソフトウェアのアルゴリズムに大きく依存します。一般的な公園緑地の場合、自動抽出で90%〜95%程度の精度が見込めますが、残りの複雑な群生樹やノイズの多いエリアの手動修正作業は不可欠です。しかし、点群上で直感的に修正作業が行えるため、従来の現地調査に比べて全体工数を数分の1に削減できます。弊社では、手動修正を最小限に抑えるためのデータ整備と処理ロジックの最適化を徹底しています。
Q. 樹高や枝張りの計測精度も確保できますか?
A. はい、可能です。地上レーザーやSLAMで取得した点群データは、幹の胸高直径だけでなく、樹高(樹木の最高点)や枝張り(樹冠の最大幅)もミリ単位の精度で計測できます。特に枝張りは、点群データから樹冠の輪郭を抽出し、客観的な数値として把握できるため、建築物や構造物との干渉チェックや、剪定計画の策定において極めて有効です。維持管理計画に必要なすべての三次元情報を正確に提供します。
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